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2004.11.17

【書評】「湘南に家を持つ」(寺倉力、エイ出版社)

雑誌「湘南スタイル」の編集者が、5年にわたる自らの経験をもとに、「湘南」に家を持つまでの顛末を記録したもの。

家を購入しようとするものは誰しも、希望条件は好き勝手なことを言い、しかしそれにみあった十分の予算の確保は難 しく、優先順位により折り合いをつけて、妥協しながらも夢を実現していくという過程をたどる。
妥協と言っても、その場面場面で本人が何かしらの判断をしているわけだから、不承不承だとしても当事者として事情は理解し、それなりに納得はしているはずである。本当はこうしたかったが諸般の事情により諦めざるをえなかった、しかたない、と。
著者の寺倉氏の場合の妥協は、「諸般の事情によりしかたない」ではなく、かえって妥協したことが良かったんじゃないかと前向きだ。本人なりには「もっと」と思うこともあろうが、読者としてはほぼ100%満足がゆく家を建てられたという印象を受ける。

湘南は、都会からの距離の割には地価が高い。
家を持つことの最大の制約条件である予算が、湘南という場所柄さらに厳しいながらも、その中で最大効用をえるべく、不動産探しに四苦八苦する。
不動産探しから最後の完成までは、湘南に家を探す以外の人にも体験談として有用だし、著者は編集者兼ライターであり読み物としても優れている。
ただし、ノウハウ本を期待すると、もう少し物件の情報や費用について具体的に紹介して欲しいと不満を持たざるをえない。結局湘南のどこに家を持ったのかすらわからないのだ。

この本には、家を持つという作業には人との出会いや関わりが大切、という教訓もあるのだが、最大の肝は本編が終わった後の著者とデザイナーの野口薫氏との対談にある。
私が鎌倉市民かつ湘南住民となって3カ月余。
鎌倉での生活がとても気に入り、できることならこの地に住居を構えたいと思うのだが、そんな私の心に野口氏の言葉が重く響く。

「売っちゃいけない」「買っちゃいけない」土地がある。
所有権があるからってなんでもしてよいわけではない。

広い土地がある。このままでは高くて買い手がつかない。ならば、いくつかに分けて安く売ってしまおう。
売り手としてはまっとうな判断である。
すると、敷地いっぱいに建てられ、必ずしも地域の風景になじまないいくつかの家がうまれる、地域にふさわしくない住人がうまれる。
失われた景観、文化を元に戻すのはたいへんに困難なことだ。
長年地域を守ってきた住人にとっては多大な損害を被ることになる。
本来、その場所にその家は存在すべきでなかったし、その家人も住人になれるはずではなかった。

文化的な側面を無視すれば、非常に安っぽく、特権意識のあらわれと思うかもしれない。
でも、所有権があればなんでもしてよいというわけではなく、その土地が所有権者のものであるのは当然だが、同時に地域住民のものでもあり、日本にあれば日本国民のものでもある、と言える。
さらに言えば、われわれは今を生きているに過ぎない。先祖代々守られてきたものがあれば、それを後世に残し伝えていかなければならない。
湘南、特に鎌倉ならば、景観を守る、文化を守る、ことには意識とともに財力も必要だろう。
地価の高い鎌倉で、広い敷地を取得・維持していくのに他の場所より金がかかるのは当然だ。
経済力がなくても文化や景観を守っていける人たちはたくさんいよう、でも端的にわかりやすい、ただし唯一ではない、基準を設ければ、鎌倉に住むには(経済的に)相応の人、ということなのだ。
私にはこれが差別的な思考というより、自然現象としての適者生存に思えた。
自然に逆らえば地域は歪む。
鎌倉から選ばれなければ、鎌倉に住むべきではないのだ。

以上のことは、野口氏が述べたこともあるが、特に後半は多分に私の曲解すぎるかもしれない。
また、野口氏はこのことばかりをテーマにしているわけではないし、私が反応した部分は氏が「気持ちよく生活する」ことの大切さを説いている中の一節に過ぎない。
誤解をしないように、本書の対談部分でだけでも読んでいただけると、私の心の負担も緩和される。
(注:土地の分筆については、どの場所でもだめだというわけではなくて、鎌倉のような「特別の場所」でなければ、経済力に見合った富の分配手段として悪くないと思う。)

たいへん面白い本だが、ちょっとしんみりした気持ちになった。
鎌倉が好きだが、それ相応な人物ではないので。

「湘南に家を持つ」
著者:寺倉力
版元:エイ出版社
価格:1575円

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